リスクとハザード

前回のはじめのいっぽの中で話に出た、リスクとハザードについて詳しくお話ししたいと思います。

 

そもそもリスクとハザードって一体なに?ということですが、英語の意味としてはどちらも「危険」です。その度合いは意味合いとして区別しているようです。

 

危機管理の中で、危険の種類を「リスク」と「ハザード」に分類します。

 

リスクとは“予測できる危険”。子ども自身が遊びや生活の中で危ないと感じることです。

この枝は細いから足をかけたら危ない。

ここは高いし柵もないから危ない。

包丁は指も切れるから危ない。

予測できるので気をつけることが出来ます。

 

ハザードとは“予測できない危険”。見えない危険。

ブランコの鎖が腐っていて切れた。

ターザンロープが劣化して切れた。

電気の線が断線していて感電した。

小さな物を口に入れて誤飲した。

大人の環境整備の怠慢によって引き起こされるものがしばしば。

予測不能な危険は重篤な怪我や死亡事故など重大な事故を引き起こします。

ハザードだけは徹底的に排除しなければなりません。


 


 

遊びの魅力の一つに「リスク」があります。カイヨワの言うところの「イリンクス・めまい」の部分(ブランコとか木登りとかジェットコースターとかのめまい・スリルを味わうような感覚)や達成感を味わうことが出来る要素です。

スリルのある遊びに対して、ちょっと怖いけど挑戦してみよう!という気持ちは誰でも持っていますし、それを乗り越えたときの達成感は子どもにとって大きな自信に変わっていきます。そうやって挑戦する気持ちが育っていくのです。


 

 

 

遊びの中でリスクを感じた子どもはその時どうするでしょうか。

危ないかも・・・と感じたらまずは慎重になります。できそうか、できなさそうか判断して、自分の体と心と相談します。

出来そうなら恐る恐る挑戦します。そのときにはすごく真剣な眼をしますよ。時には大人の手を借りたり(最近接領域なんていいます)、ちょっとずつ挑戦して練習したりして、少しずつ自信をつけていきます。

出来そうもないと判断すれば諦めます。怖いから諦めるのです。諦めることも必要なことです。怖いということを彼は知っているのです。でも、他の人の挑戦を見たり、達成した人の姿を見て「自分ももしかしたら出きるんじゃないか・・・でも・・・」と葛藤を繰り返し、葛藤に打ち勝つほどの気持ちが芽生えた時挑戦を試みる時が来るのです。

 

 

 

 

リスクを子どもが感じる為にはどうしたら良いのか。

 

それは、子ども自身の危険予知能力を伸ばしてあげることです。

よちよち歩きの赤ちゃんは、歩く楽しさ、世界の広がりの楽しさが大きく、危険を感じることがまだできません。だから無謀なことをどんどんします。その中で痛い思いをしながら危険を感じていくのです。そうやって人は少しずつリスクをの経験を積み重ね、身の回りの世界を広げていくのです。

 

ちいさなリスクでつまずいて、乗り越えて、また次のリスクでつまずいて、また乗り越えて・・・

身の回りの世界のリスクを感じ取る能力を身につけていきます。

自分自身が経験したことでなければ身に付きません。いくら大人が危ないからと言い聞かせても彼らの身にはなりません。実体験から得た経験、世界の広がりが彼らの全てなんですから。

 

 

 

1回目のはじめのいっぽでのこと。

1歳になる男の子が狭い縁側でふらふらと立ったりハイハイしたりを繰り返していました。

その状況だけでリスクとハザードが入り交じった状況ですね。彼はまだそんなことわかりませんから、こちらで察してあげます。

このときは縁側から転げ落ちると判断したので、すぐに縁側の下に位置を変え座り直しました。

ここでのハザードは縁側から落ちて頭を固い地面に打ち付けるということです。このときに起こりうるハザードをケアしたことによって、このハザードはリスクに限りなく近づきました。

リスクは周りが狭いので障子や戸にぶつかるということや座敷との間の段差の尻餅をつくことくらいでした。

縁側の下から見守っていると、スレスレのところで立ったり尻餅を繰り返していました。そして、やっぱり予想通り男の子は縁側から落ちました。

予測できていたので地面にぶつかることなくキャッチしたので無事でしたが、男の子はというと大泣き。

そりゃ怖かったと思います。結構な高さから落ちる経験をしたのですから。

そのときにお母さんに、段差の降り方(お尻からおりる)を教えてあげてくださいとアドバイスしました。

 

1ヶ月後、次のはじめのいっぽでその後の様子を伺ったところ、

あれからすぐにお尻からおりるようになったという嬉しい報告。

彼は“実体験によって”危険を経験し、危険回避の方法を身につけたのです。これが学習です。

もしも落ちないようにと戸を閉めてしまえば(そういうハザード管理もあるかもしれませんが)彼はこのときにその経験を得ることが出来なかった訳です。

 

この積み重ねが後に危険予知能力の鍵となるのです。小さな小さなことの積み重ねが大事なのです。

 

 

 

 

危険予知能力は子どもを怪我から守るための大事な能力です。

どんなに大人の経験を押し付けても、彼らは実体験からしかそれを経験を得ません。

遊びの中でリスクを感じるのは子ども達自身。

彼らの力を信じましょう。

小さな小さな積み重ねが彼らの力を育みます。

彼らの力を信じましょう。

私たちも子どもの頃にそうして身につけてきたのです。

彼らにも必ず出来ます。

 

過度に怖がらずに、小さなことから子ども達に怖さの経験させてみませんか?